福岡高等裁判所宮崎支部 昭和42年(く)1号 決定 1967年2月14日
少年 N・G(昭二四・一一・一五生)
主文
原決定を取り消す。
本件を鹿児島家庭裁判所に差し戻す。
理由
(本件抗告の趣意)
本件抗告の趣意は、少年名義の抗告申立書に記載のとおりである。それは要するに、重大な事実誤認と処分の著しい不当を主張するものである。
(当裁判所の判断)
一 事実誤認の主張について。
所論は要するに、少年が○村○子をつかまえたり、押したり等同女の身体に手をかけたのは、ただたんにふざけたまねをしただけで、同女を強姦する意思からではなかつたのに、その意思によるものと認めた原決定には重大な事実誤認の違法がある、というのである。
なる程、少年に強姦の意思があつたならば、その目的を遂げうる状況にあつたにも拘らず、ともかくも原判示以上の行為に出ていないところからすれば、少年の資質、性行等にかんがみ、所論のように単なる悪ふざけではなかつたかとの疑をさしはさむ余地が全くないわけではない。しかしながら、少年は捜査段階から原審の審判を通じ一貫して、前記行為が強姦の意思に基くものであることを認めており、その自白の内容は、具体的で不自然なところはなく、記録上その任意性を疑わせるような証跡は発見できないので、なお措信するに足り、当審における事実取り調べの結果によつても、原決定の認定をくつがえして、所論主張を認めさせるに足りない。
したがつて、原審が、被告人の○村○子に対する本件行為を、強姦の意思によるものと認定したのは、相当であつて、原決定に所論のような事実誤認の違法はない。
この点の論旨は理由がない。
二 処分の著しい不当の主張について。
所論は要するに、少年はふざけたまねをして○村○子に原判示の骨折の傷害を与えたが、この程度の非行で、それまで何らの非行歴を有しない少年に対し、いきなり中等少年院に送致する決定をした原審の処分は著しく不当である、と主張するものである。
本件の少年保護記録および少年調査記録に現われている本件非行の動機、態様、罪質、被害者の年齢等を重視し、鑑別結果にみられる資質上の問題点や保護者がこれまでとつてきた指導監督に対する無関心な態度等の諸事情を考えると、少年に要保護性があることは疑いなく、所論にいう事由(なかでも前記骨折が強姦の意思に基く行為の結果であることは、すでに説示したとおりである。)は、いずれも原決定を取り消すべき事由とはなりえない。
しかし翻つて考えてみると、少年は中学二年のとき父親の現金一万〇、〇〇〇円を無断で持ち出して使つたことはあるにしても、これまで、特に非行という程のものはないこと正に所論のとおりであつて、在宅のままで保護された経験も勿論有していない。それに本件非行にしても、この種非行にありがちな執拗残忍さはなく、強姦の目的を遂げようと思えば、遂げられるような状況にあつたのに、ともかく原判示以上の行為に出ないで、姦淫行為には及んでいないところからして、少年の非行性が左程根強いものとは認め難く、更に当審における事実取り調べの結果によれば、少年の父親は自己の指導監督の至らなかつたことを深く反省し、本件を契機に少年に適した保護環境を詮索し、少年を善導する旨誓つており、近くに住む少年の出身校の○○町○○○中学校の校長○辺○俊も出来るだけの面倒をみる旨誓つており、これら関係者の少年の補導に対する熱意が十分認められるとともに、少年自身も、本件を契機に自己のもつ問題点を自覚して、非行に結びつくようないたずらを慎むことを誓い、更生への意欲を示しはじめたことが認められ、これ等一切の事情を考慮すると、在宅のままで保護観察所の保護観察に付してその成果を検討し、或は家庭裁判所調査官の観察に付し、その結果をまつて施設に収容しても遅くはないと認められ、今直ちに少年を中等少年院に送致するのは、いささか早計に過ぎるきらいがあり、結局原処分は著しく不当であるとのそしりを免れ難いのである。
よつて、本件抗告は結局理由があるから少年法三三条二項によつて原決定を取り消して、本件を鹿児島家庭裁判所へ差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 木下春雄 裁判官 栗田鉄太郎 裁判官 中野辰二)
参考
原審決定(鹿児島家裁 昭四一(少)二五五四号 昭四一・一二・一五決定)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(罪となる事実)
少年は、昭和四一年一一月○○日午後四時ごろ、人かげのない鹿児島県囎唹郡○○町○○○××の道路上で、下校途中の○村○子(八歳)ほか一名の姿を認めて劣情を催し、右○村を姦淫しようと企て、路上ですれちがうや、いきなり同女をつかまえ、前襟をつかんで道路脇の山中に引きずりこもうとしたが、同女が手をふりきつて逃げたため目的をとげなかつたが、その際逃げようとする同女を背後から押したため道路下に転落させ、よつて同女に右鎖骨々折により治療約一ヶ月を要する傷害を与えたものである。
(適用法令)
少年法第三条第一項第一号
刑法第一八一条
(処遇)
調査、鑑別および審判の結果明らかになつた少年の資質および環境並びに保護者の保護能力などからみて、少年を中等少年院に収容して矯正教育を受けさせるのが相当である。
よつて、少年法二四条一項三号により主文のとおり決定する。
編注
受差戻家裁決定(鹿児島家裁 昭四二(少)二七〇号 昭四二・三・二九決定)保護観察